日本における数少ないユニコーン企業として知られ、人工たんぱく質素材の開発を手掛けるスパイバー(spiber)社が、今年、山形に紡糸の量産工場を稼働させました。既に、アウトドア衣料ブランドのゴールドウインにスパイバーの素材を提供してアパレル製品を販売してきましたが、これまでは素材の量が少ないために限定的な生産にとどまっていました。2022年に初の素材量産の拠点としてタイ工場を稼働したことで、紡糸の量産が可能となり、アパレル製品の大規模な展開が可能となりました。
スパイバーは、山形県鶴岡市の慶應義塾大学先端生命科学研究所での研究をベースに2007年創業しました。当初、高い強度と伸縮性を持つクモ糸を人工合成することを目指していました。2013年に天然クモ糸の遺伝子情報を基に「人工クモ糸」を開発したものの実用化には至りませんでしたが、クモ糸の遺伝子にこだわらずにたんぱくを分子レベルから設計した結果、2019年に人工たんぱく糸の製造に成功しました。
人工たんぱく質は特定のたんぱくを作らせる遺伝子を組み込んだ微生物によって作られますが、微生物のエサは植物由来のため、石油や動物由来の素材よりも環境負荷が低いのが特長で、環境意識が高い消費者に受け入れ性があると評価され、ゴールドウインとの協業が実現しています。また、スパイバーは現在、数千に及ぶたんぱくの性質をデータベース化していると言われ、今後様々な素材の設計、製造を行っていくとみられます。
創業から16年、開発の方向性を大きく転換しながらも、歩みを止めることなく量産までこぎ着けた経営陣の胆力には感心させられます。ただし、今後は黒字化に向けた挑戦が続くことになりますし、事業拡大のための上場に向けた動きもあるとみられ、まだまだ乗り越えるべきハードルが残っています。
世界中の国々が将来的なカーボンニュートラルの達成を宣言する中、テクノロジーで気候変動対策に挑む「気候テック」が世界的に注目を集めています。スパイバーは、日本において「気候テック」に取り組むスタートアップとして知られる代表的な企業であり、これに続くスタートアップの登場も期待されています。昨年発表された「スタートアップ育成5か年計画」に基づいて、スタートアップへの投資額は年々拡大するとされていますが、今年6月に決めた「経済財政運営と改革の基本方針」において、この投資に気候テックへの投資を含むことが明示されました。こうした投資が功を奏して日本のカーボンニュートラル実現に貢献する気候テックのスタートアップがさらに誕生することを期待するとともに、スパイバーには気候テックスタートアップのトップランナーとして、早期に事業化面での成功を収めてくれることを期待します。 |